以前、樋口寿人さんのライブを円盤で観た時は大雪が降っていた。
狭くて明るいので円盤でライブを観るのは少し苦手だ。
三組中一番目に演奏。
曲目は以下。
1.きえものエンドレス
2.新曲?(穏やかな雰囲気の曲)
3.幸福の電波
4.新曲?(さまようおばけと歌う曲)
5.痛み運ぶ器
6.んんンMusic
彼のライブを初めて観たのは2013年、丁度「Otomeyama Bottoms」を発表した頃。それから現在に至るまでの間に彼の歌に対する意識は徐々に変化しているように感じた。
この日の演奏について、円盤という生音に頼らざるを得ない環境が作用した面も大きいと思われるが、少し声を張るように歌われたそれは、PSFから発表された初期作品集で聴くことの出来るあの歌声、トーンに近いと言える。
同年2月に逝去されたPSFレーベルオーナーの生悦住さんに捧げられたであろう曲をこの日の最後に演奏した。
その曲の歌詞は彼のサイトに掲載されており、故人を偲び、彼岸に想いを寄せる心境を率直に表現している。
またギターアレンジも2コードの穏やかな曲調から、彼らしい繊細かつ不穏を感じさせるコードへと進行していき、ふたつの世界を想起させる。
彼のライブを初めて見たのは八丁堀七針。ストラトキャスターをアンプへ直に繋ぎ、指で弦を撫でるように爪弾く。
なんて澄んだ響きだろうと、雑味のない凛としたその音は今も鮮やかに蘇る。
翻って円盤で聴いたそれに彼の感性の宿る余地はなかったように思う。
仮に歌唱に焦点を当てたいという意図があったとしても、小型アンプから響く中核をスポイルされた脆弱な音は、彼の歌を不自然に輪郭付け、映し出す情景をいくらか硬直させてしまったような印象を受けた。
「消え続けるエコー」は素晴らしい作品だと思う。
貧しい想像力を持って無責任を承知で書く事は、もし生悦住さんがこの作品の完成を待つ事が出来たならきっと、初期作品集を凌ぐ樋口さんの最高傑作としてこれを評したのではないだろうか。